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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)174号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 第一引用例の技術内容

(1) その(1)の主張について

原告は、審決が、第一引用例を根拠に、ミラー掃引回路においてはコンデンサとして小容量のものを使用できることが明らかであるとしたのは誤りである、と主張する。

成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例の記載の趣旨は、原告主張のとおり、ある目的のためのある容量のコンデンサにより発生される鋸歯状波の直線性が、コンデンサを容量が(1+G)倍のものとしたときと同じものに改善されるというにとどまり、それ以上に、ある目的のためのある容量のコンデンサを、より小容量のものとすることができる、といつているものではない、と解せられる。

しかしながら、ある容量のコンデンサにより発生される鋸歯状波の直線性が、ミラー掃引回路によつて、コンデンサを容量が大きいものにしたときと同じものに改善されるという以上、所定の直線性を有する鋸歯状波を発生する目的のためのある容量のコンデンサを、ミラー掃引回路を使用することによつて、より小容量のものとすることができることは、直ちに推考できることである。

したがつて、審決が、第一引用例を根拠に、ミラー掃引回路においては、コンデンサとして小容量のものを使用できることが明らかであるとした点に誤りはなく、原告の主張は理由がない。

原告は、本願発明の明細書における発明の詳細な説明の項の記載と甲第六号証の記載とを根拠に、本願発明におけるコンデンサの容量値は具体的に〇・一マイクロフアラツド程度に限定されていると主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第二号証によれば、原告が指摘する本願発明の明細書における発明の詳細な説明の項には、「現在までは……大容量の電解コンデンサを使用しなければならなかつた。しかしながら、普通の電解コンデンサは不安定であり……高級なタンタルコンデンサが安定性を改良するために試用されているが、しかしこれらは非常に高価である。この発明は上述のような未解決の困難な問題に対して解決を与えるものであり、これによれば鋸歯コンデンサとして安定な形式の比較的安価な小容量コンデンサを使用したトランジスタ化偏向回路によつて充分な垂直ヨーク線輪の所要電力を得ることが可能となる。」(甲第二号証第二欄第五行~第二〇行)、「容量増倍効果を利用すると前述の鋸歯コンデンサを選択する場合の安定性対高価格の問題が解決される。コンデンサ80として使用するべき実際のコンデンサは比較的小さい、安定でしかも安価な紙型の(例えば、〇・一マイクロフアラツドの値をもつ)コンデンサでよい。」(同第七欄第五行~第一〇行)と記載されているのであつて、この記載によれば、本願発明でいう「安定」とは、「普通の電解コンデンサよりも安定」という意味であり、「安価」とは、「タンタルコンデンサよりも安価」という意味であり、「小容量」とは、「右の意味における安定で安価なコンデンサによつて実現できる程度の容量(すなわち、電解コンデンサでなければ実現できないような大容量でない容量)」という意味であり、「〇・一マイクロフアラツドの紙型コンデンサ」は単なる例示にすぎない(したがつて、チユーブラー型に限られない)と解するのが相当である。そして、他方、成立に争いのない甲第六号証によれば、本願発明の特許出願前、MPコンデンサでは一〇〇マイクロフアラツド程度、紙型でもチユーブラー型に限らなければ一〇マイクロフアラツド程度まで実用されていたことが認められる。

したがつて、本願発明にいう「容量値」が具体的に〇・一マイクロフアラツド程度に限定されているという原告の主張は採用することができず、また、右主張を前提とする原告の主張はいずれも理由がない。

また、原告は、甲第五号証によれば、第二引用例の回路のタイミングコンデンサ150の容量は二マイクロフアラツドで、本願発明のそれより一桁以上大きく、それは当然電解コンデンサであるから、本願発明が改良の対象とした従来のものであると主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第二号証及び同第三号証によれば、ミラー掃引回路の原理を応用したトランジスタテレビジヨン受像機においても、場合によつては、一マイクロフアラツド程度の容量のタイミングコンデンサを用いることがあることが認められるから、二マイクロフアラツドという第二引用例のタイミングコンデンサ150の容量が特に大きいというのは当らない。

また、第二引用例のタイミングコンデンサが電解コンデンサであると断定するに足る証拠はない。かえつて、前掲甲第六号証によれば、当時、電解コンデンサにとつて二マイクロフアラツドというのは実用範囲の下限に近い値であり、他方、紙型コンデンサでも一〇マイクロフアラツド、MPコンデンサでは一〇〇マイクロフアラツドまで実用範囲にあつたことが認められ、また、成立に争いのない甲第五号証によれば、本願発明に対応する米国特許明細書において、容量値からみて電解コンデンサと考えられるコンデンサ134、136、148(容量は、それぞれ、一六〇マイクロフアラツド、五〇〇マイクロフアラツド、一六マイクロフアラツド)には電圧の指定があるのに、コンデンサ150にはそのような指定がないことが認められるから、これらの事実に徴し、更に、タイミングコンデンサには相当な精度が要求されることを考慮すれば、コンデンサ150は電解コンデンサでないと解するのがむしろ自然というべきである。

(2) その(2)の主張について

原告は、本願発明における高安定度コンデンサの使用は、本願発明の目的とする安定性を達成するための手段であつて、タイミングコンデンサとして小容量のものが使用できるからではなく、本願発明の発明者にとつてのみ必要があつたことであるから、審決が、乾式非電解型の高安定度コンデンサの使用をもつて、当業者が必要に応じて容易に選択できる事項であるとしたのは誤りである、と主張する。

しかしながら、耐久消費財であるテレビジヨン受像機にとつて安定性が望まれることはいうまでもないことであり、トランジスタ化の利点の一つが安定性にあつたことは周知であるところ、偏向用鋸歯状波の波形にとつてタイミングコンデンサを含む回路の時定数が決定的影響力をもつことは技術上の常識であり(成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証の三)、かつ、普通の電解コンデンサが不安定なことも周知であるから、タイミングコンデンサとして普通の電解コンデンサを使用することに基因する不安定性の除去は、当業者であれば当然考慮する事項であるというべきである。また、価格競争の激しい当分野において経済性が望まれることも、いうまでもないことである。

そうすれば、前示のように、ミラー掃引回路の採用によつて、タイミングコンデンサが小容量のものでよいとなつた以上、安定でしかも安価なことが周知の乾式非電解型のものを採用することは当業者として当然のことというべきである。

また、原告は、「設計的な事項」の意義を述べ、本願発明におけるコンデンサの種類の選定はそれに該らないと主張しているが、「設計的な事項」の意義が原告のいうとおりであるとしても、前示の事実関係によれば、ミラー掃引回路の利用を前提とする限り、トランジスタテレビジヨン受像機におけるタイミングコンデンサとして乾式非電解型のものを採用することは「設計的な事項」というを妨げない。

原告の主張するところは、いずれも理由がない。

2 第二引用例の技術内容

原告は、審決が、ミラー掃引回路におけるミラー効果をテレビジヨン受像機の垂直偏向回路に採用することは第二引用例に記載されているとしたのは誤りである、と主張する。

前掲甲第三号証によれば、第一引用例にいうミラー掃引回路とは、周知のミラー積分回路に対して、その増幅器の入力端子間に周期的にオン・オフするスイツチを接続するとともに、入力として直流(一定値)電圧を与えたものであつて、それが単純なCR積分回路を用いた掃引回路よりも直線性の良い鋸歯状波を発生することができる原因は、ミラー積分回路の帰還(積分)コンデンサが、入力電源側からみて、等価的に(1+G)倍(ただし、増幅器の利得を-Gとする。)の容量を有する点、換言すれば、増幅器の入力点、すなわち、入力抵抗Rと帰還コンデンサCの接続点の電圧が、同じ時定数を有するCR積分回路の抵抗とコンデンサの接続点の電圧の(1+G)分の一となつて、実質上常に0とみなせるために、抵抗Rを通つてコンデンサCに流れる充電電流が、常に入力電圧にほぼ正確に比例することによつて、非常に正確な積分動作が行なわれる点にあり、かつ、そのような現象は、ミラー積分回路の基本構造の一部である、積分用のコンデンサが極性反転型増幅器の入力と出力の間に接続されていることに起因するものと認められる。そして、成立に争いのない乙第一号証の二によれば、右の現象がミラー掃引回路におけるミラー効果の本質であると認められる。

他方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例の回路は、トランジスタ98、106、118が極性反転型増幅器を構成し、その入力点100と出力点(コンデンサ136とヨークコイル138の接続点)の間に帰還(充電)コンデンサ150が接続されるとともに、右入力点100は、抵抗144、146とフイルタ(抵抗142とコンデンサ148)を経て、SEPP増幅回路を構成する出力トランジスタ106、118のエミツタに接続されており、抵抗142、144、146及びコンデンサ148からなる回路がコンデンサ150にほぼ一定の充電電流を供給するとともに、増幅器の初段トランジスタ98の入力に制御電流を供給し、その結果、制御電流の時間積分に比例して直線的に増加する鋸歯状波出力を発生するものであることが認められる(甲第四号証の特に第三頁左欄第一二行~第二一行、同頁右欄第三一行~第三七行、同欄第四一行~第四八行、第四頁左欄第一二行~第二〇行)。

そうすれば、右の回路部分は、ミラー積分回路の基本構造をもち、その構造から生じるいわゆるミラー効果が働くことによつて、直線性の良い鋸歯状波出力が得られるものであると理解することができる。

また、増幅器入力点100と基準電位点(アース)の間に周期的にオン・オフする放電トランジスタ80が設けられていることから、第二引用例の回路が第一引用例のミラー掃引回路の基本構造とほとんど同じ構造を有していることはみやすいところであり、第二引用例の回路がテレビジヨン受像機の垂直偏向回路であることは明白である。

そうすれば、審決が、ミラー掃引回路におけるミラー効果をテレビジヨン受像機の垂直偏向回路に採用することは第二引用例に記載されているとしたことに誤りはなく、原告の主張は理由がない。

原告は、第二引用例の回路に「第一帰還電路」が存在する点を強調するが、「第一帰還電路」は、正帰還路であつて、掃引の後段部分で増幅器の利得を増大させるものであり(前掲甲第四号証第三頁左欄第四行~第九行)、掃引の前期には右正帰還が行なわれないけれども波形上支障はなく(同第四頁左欄第二〇行~第二二行)、タイミングコンデンサ150に対する一定の充電電流は「第二と第三の帰還電路」を通つて供給される(同第三頁右欄第三五行~第三七行)のであるから、その回路の新規性がどこにあるかはともかく、積分動作の本質的部分に関する限り、「第一帰還電路」を捨象しても誤りでないことは明らかである。

また、原告は、第二引用例の出力トランジスタ106、118のエミツタと出力端子の間にあるコンデンサ136には交流電位差が生じないから、掃引期間中、出力トランジスタのエミツタと出力端子とは、第二図174、175が示すように、交流的に同電位であり、コンデンサ150の充電動作に対する出力端子からの負帰還作用(ミラー積分回路の条件の一つ)が出力トランジスタのエミツタ電圧によつて打消され、したがつて、コンデンサ150の充電回路は本質的にミラー積分回路でないと主張する。

しかしながら、ヨークコイル138のインピーダンスは、垂直掃引期間中、小さな純抵抗とみなされるから(成立に争いのない甲第二号証第三欄第三七行、第六欄第一九行及び同甲第五号証第七欄第七〇行)、コンデンサ136の電圧降下を無視することはできず、また、第二図174、175の二つの波形は明らかに異なつている。かえつて、第二図の174、175の波形の差異とヨークコイル138の前示性質とを考え合わせると、出力トランジスタのエミツタの交流電圧波形は、出力端子のそれの積分に近いとみるべきである。更に、抵抗142とコンデンサ148は積分回路を構成するということができるから、結局、エミツタの交流電圧は抵抗142とコンデンサ148との接続点において、出力端子の交流電圧の二重積分に近い波形のものとして作用をすると考えられる。そうすれば、出力端子そのものを抵抗のみを介して増幅器入力に接続した場合とは著しく異なり、本願発明の第二図の実施例が二重積分回路(120、123、121、124)を含む帰還路を有するのと同様に、ミラー積分回路の条件の一つである負帰還作用が打消されることはないはずである。そして、第二引用例の回路が実用上充分な直線性を有する鋸歯状波を発生すると認められることは既述のとおりである。したがつて、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、ミラー掃引回路におけるミラー効果は、<1>及び<2>の条件並びに増幅器の入力インピーダンスが十分大きいという条件が満たされてはじめて得られるものであるのに、第二引用例の偏向回路はこれらの条件を満たしていないから、審決の前記認定は誤りであると主張する。

(a) 条件<1>及び増幅器の入力インピーダンスについて

前掲甲第三号証、乙第一号証の二及び成立に争いのない乙第一号証の三によれば、増幅器の利得及び入力インピーダンスの大小は、直接には、ミラー効果による容量増倍率の大小及び入力抵抗Rを流れる電流とコンデンサ充電電流との一致の程度にそれぞれ影響し、結局は、ミラー積分回路の積分誤差の変化により直線掃引回路としての出力の直線性の程度に影響するだけであつて、ミラー効果の発生それ自体を阻害するものではなく、しかも、ミラー掃引回路によつても、出力鋸歯状波の直線性は近似的に達成しうるにとどまり、完全な直線性を実現することは元来不可能なことと認められ、他方、ミラー掃引回路と呼ぶに必要な直線性の限界が定められているわけではないから、増幅器の利得及び入力インピーダンスの大小は、ミラー掃引回路におけるミラー効果の本質にかかわる条件ではないというべきである。そのうえ、もともと、トランジスタ増幅器の入力インピーダンスは、以前のミラー掃引回路に用いられた真空管増幅器に比較すれば、格段に小さいものであるし、また、通常の増幅器には必ずある程度の非直線性が存在し、そのため、利得は振幅(積分回路の場合は「時間」)に対して完全には一定にならないものである。したがつて、第二引用例の回路において、その増幅器の利得が一定でなく、また、そのエミツタ接地トランジスタ98の入力インピーダンスがエミツタフオロアのそれより小さいからといつて、その回路はミラー効果を採用したものでないとするのは相当でない。

特に、第二引用例の回路において、掃引期間の後半で利得を増大させている点についてみれば、原理上、ミラー掃引回路の直線性の誤差は、コンデンサの充電が進むほど、すなわち、掃引期間の後期になるほど、増大するものであり、他方、この誤差は増幅器の利得が大きいほど小さいものであるから、掃引期間の後半で利得を増大させることは、直線性(厳密には、積分精度)を改善するうえで、掃引期間の前半において既に充分な利得があつても、なお、有意義というべく、これを全く無意味であるという原告の主張は採用できない。

原告は、また、増幅器の利得の変動が許されるのは、入力が一定値を保つことが前提であると主張するが、増幅器の利得が直接影響するのは、前述のように、容量増倍効果であり、この効果は入力値とは無関係であるから、右主張も採用できない。

(b) 条件<2>について

ミラー掃引回路におけるミラー効果の本質が既述のとおりのものである以上、通常の動作範囲における限り、右効果が入力電圧の大小や変動に関係がないことは明らかである。したがつて、条件<2>は、ある回路がミラー掃引回路におけるミラー効果を採用したものか否かを判定するに当つて考慮する必要がないものである。

そうすれば、第二引用例の回路において、増幅器入力100に抵抗144、148を介して接続された入力電源(抵抗142とコンデンサ148の接続点)の波形が完全な一定値ではなく、それに交流成分を重畳したものであることは原告主張のとおりと考えられるけれども、そのことのために、第二引用例の回路をミラー掃引回路におけるミラー効果を採用したものでないとすることはできない。一般に、入力が一定値に交流成分を重畳したものであれば、出力は、ミラー効果によつて、一定値の積分である直線に右交流成分の積分波形を重畳したものになるだけである。

なお、第二引用例の回路における入力電源波形が完全な直流でない点については、その交流成分波形が、前述のように、出力端子の交流電圧の二重積分に近似すると考えられることと、本願発明の第二図の実施例において、いわゆるS字特性の付与のために、積分コンデンサ80と並列に、二重積分回路(120、123、121、124)を含む帰還路を設けたこと(前掲甲第二号証第九欄第二一行~第三八行)とを対比考察すれば、被告主張のように、それをS字特性付与のためのもの、またはそれに類似の補償のためのものと解しうる余地は十分にある。これに関して、原告は、第二引用例のものは出力鋸歯状波の直線性を改良するためのものであつて、S字特性を付与するためのものではないから、被告の主張は第二引用例を全く離れたものであると主張するが、第二引用例は特公昭三六―七一一四号特許公報の全体であるから、そこに記載されている事項である以上、特許請求の範囲に記載された発明と直接の関係がない事項であつても、右引用例を離れたものではないというべく、原告の右主張は理由がない。

以上のとおりであり、審決が違法であるとする原告の主張はすべて理由がないから、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

所要の高さのラスタを作り出すために所定の電力レベルで垂直周波数鋸歯状波で付勢される垂直偏向コイルと、選択されたある位数の大きさをもつた容量値の乾式非電解型の高安定度コンデンサを上記コイルを付勢する垂直周波数鋸歯状波を作り出す際のタイミングコンデンサとして利用する手段とを具備し、上記利用手段は入力端子と出力端子とを有し、それらの間で電力利得を有するトランジスタ増幅器と、抵抗手段と直列に接続されていて導通状態と非導通状態との間で周期的に切り換えられるトランジスタ装置と、この抵抗手段とトランジスタ装置との直列回路を単方向電位源の両端間に接続する手段と、上記トランジスタ増幅器の入力端子と出力端子との間に接続された上記高安定度コンデンサを含む負帰還路と、上記トランジスタ装置と上記抵抗手段との接続点と上記入力端子との間の接続手段と、上記垂直偏向コイルと上記出力端子とを結合する手段とを具備し、上記トランジスタ装置が非導通状態にあるときは上記コンデンサは上記抵抗手段を経て充電され、上記トランジスタ装置が導通状態にあるときはこのトランジスタを経て放電され、上記トランジスタ増幅器の利得は上記充電動作に対する上記コンデンサの実効容量値が上記選定された位数の容量値よりも高い位数となるような大きさであり、上記実効容量値は上記抵抗手段の値と関連して上記付勢用垂直周波数に対して適切な値の充電時定数を与え、かつ、上記トランジスタ増幅器が上記出力端子において上記所定レベルのコイル付勢電力を発生するのに適当な上記入力端子における鋸歯状波のレベルを与えることを特徴とする受像管を有するテレビジヨン受像機用のトランジスタ偏向回路装置。

審決の理由の要点

本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

他方、本願発明の特許出願前日本国内において頒布された刊行物・「トランジスタ回路入門」(第二三六頁~第二四一頁)(昭和三八年丸善株式会社発行、著者・柳沢健、以下「第一引用例」という。甲第三号証)には、「利得が-Gの増幅器の入力端子と出力端子の間にコンデンサCを接続し、その入力端子には直流電圧源E8を抵抗Rを介して接続するとともに、入力端子とアース間にトランジスタからなるスイツチング回路Sを形成したミラー掃引回路」が記載されており、スイツチング回路Sの開閉によつて、前記増幅器の出力端子に直線的な掃引電圧が得られるという趣旨の説明がある。

そこで、本願発明と第一引用例のものとを対比すると、両者は、ともにミラー掃引回路を骨子とする構成において一致し、一応、次の点において相違している。

(イ) 本願発明は、選定された位数の容量値をもつタイミングコンデンサとして乾式非電解型の高安定度コンデンサを使用し、その実効容量値の位数を増幅器の利得で、前記選定された位数の容量値よりも高い位数になるように限定しているのに対し、第一引用例にはそのような記載がない。

(ロ) 本願発明は、ミラー掃引回路を構成する増幅器の出力に垂直偏向コイルを接続し、タイミングコンデンサの実効容量値と抵抗手段の値が、垂直周波数に対して適切な充電時定数となるように設定して、テレビ受像機用の偏向回路に適用しうるように、増幅器の電力利得及び垂直偏向コイルの値を定めているのに対し、第一引用例にはそのような記載がない。

そこで、右の相違点について検討すると、

相違点(イ)については、ミラー掃引回路におけるタイミングコンデンサの容量が、増幅器の利得Gに対し、(1+G)倍の実効容量として働くことは、第一引用例の図12・34及びその説明からみて周知の事項であるから、例えばG>10としてコンデンサの実効容量値を実際のコンデンサの容量値よりも一桁以上高めることは単なる設計事項にすぎないものであり、また、その際コンデンサとして小容量のものが使用できることは明らかであるから、容量の特性が比較的に安定な乾式非電解型のコンデンサを採用することは、当業者が必要に応じて容易に選択できる事項と認められる。

相違点(ロ)について、ミラー掃引回路におけるミラー効果をテレビ受像機の垂直偏向回路に採用することは、本願発明の特許出願前日本国内において頒布された刊行物・「特公昭三六―七一一四号特許公報」(以下「第二引用例」という。甲第四号証)に記載されているところであつて、前記ミラー掃引回路における増幅器の出力端子に垂直偏向コイルを接続し、タイミングコンデンサと抵抗の時定数を垂直掃引周波数に関連して定め、前記増幅器の電力利得及び垂直偏向コイルの定数を、所要の高さのラスタが作り出されるような値に設定し、テレビ受像機の垂直偏向回路に適用することは、当業者が容易に設計できることである。

なお、相違点(ロ)について、出願人(本件原告)は、第二引用例における偏向回路にはミラー効果がない旨主張しているので、この点について言及する。

第二引用例の図面に記載されているトランジスタ98のエミツタ102は、明細書の記載及び第二引用例に対応する米国特許第二九六四六七三号明細書に記載されているインピーダンスの数値から勘案して、直接アース点に接続されるべきものであつて、トランジスタ98、118、106から成る回路は増幅器として充分な増幅作用があるものと認められる。そして、この増幅器の出力端子であるエミツタ110、122は結合コンデンサ136を介して偏向コイル138に接続されるとともに、充電蓄電器150を含む回路が増幅器の入力端子であるベース100に接続され、負帰還回路が構成されている。他に、抵抗142、144、146から成る帰還路があるが、抵抗142と144の接続点は蓄電器148によりアースされ、鋸歯状波を濾過している点からみると、上記の帰還路は直流電流に対するものであつて、充電蓄電器150の充電回路を形成するものと認められる。

したがつて、明細書の記載に徴して上記の回路を全体的にみれば、ミラー効果をもつた偏向回路と考えるのが相当であり、出願人の主張するように、「充放電コンデンサ150が、抵抗142、144、146を経て交流的には電位差がないコンデンサ136の両端間に接続されているので、増幅利得に関係なくミラー効果が期待できない。」という趣旨の論拠は、蓄電器148の存在からみても採用できず、また、充電蓄電器150の数値二マイクロフアラツドも電源電圧、増幅器の利得等に関連して決められるものであつて、その数値が本願発明のものに対して大きいという事実から、ミラー効果を否定することはできない。

以上のとおりであつて、本願発明は、第一引用例及び第二引用例に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により、特許を受けることができない。

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